孤独の自炊 #006:「義理タンポ」鍋

吹雪の秋田での仕事を終え、関東に戻る新幹線。昨夜食べた「本場」のキリタンポ鍋は、確かに絶品だった。特に、天然の舞茸は、地元でもなかなか手に入らない、とても貴重なものだったようだ。 だが、お会計の数字もまた、これまた立派なものだった。地元の方はこういう時『ドデした(驚いた)』と言うらしい。あいにく『どうでした?』と感想を聞けるような雰囲気ではない。ただ、ただ、その数字に、俺の財布がドデしていた。 「美味いものには代償が伴う。それは、わかる。…… だが、俺の日常は、もう少し気楽な、別の場所にあるはずだ」 明日の埼玉での仕事に備えて、大宮駅で下車し 予約したビジネスホテルへ向かう途中のスーパー。 秋田ではあんなに探しても見当たらなかった、手ごろな「白き円筒」が、ここでは当たり前のような顔をして、百円程の値を提げて山積みされている。 キリタンポ一袋分で、この円筒が何本買えるだろう。 ……そんな無粋な計算は、よそう。 大事なのは価格じゃない。…

孤独の自炊 #005:悲しいレンコン

※見出し画像のレンコンの断面はAI生成です。 呑兵衛ながら自炊もする、フリーの輸入雑貨商の腹之足三郎は、天草諸島での仕事のあと、帰りの熊本駅の土産物屋で、本物の辛子蓮根を見つけた。 黄金色の衣、ぎっしり詰まった辛子味噌―― 「……これは、職人の仕事だ。」 その完成度に見惚れつつ、三郎は静かに頷く。 「この手間、この歴史。値段にも理由がある。」 ただ、ふと思う。 九州を離れれば、この味にはなかなか出会えない。 それがまた、本物の価値を際立たせていた。 「本物は本物として尊い。…

孤独の自炊 #004:ヤリイカの香草蒸し🦑

今日も、やっと仕事が終わった。 「今日はくたびれた。何か、買って帰ろうか…」 お惣菜屋のメニュー札、「焼きイカ」は裏返しになっている。 「売り切れか。そういえば、最近、スルメイカを見なくなった。 あの、堂々とした胴体、つやつやした皮。」 「あぁ、急にイカが食いたくなった! 腹が減った…」 気がつけばスーパーの魚売り場に。 片隅には、 薄皮がところどころ剥がれかけた、 どこかみすぼらしいヤリイカが並んでいる。…

孤独の自炊 #003:エスニックおひたし丼(復刻版)

※コチュジャンを使わないので、ビビンバではありません。 大変だったハンティング用品店の仕事が終わり、出張先のビジホへ向かう腹之下三郎。コンビニへ入るも、見事にお弁当は売り切れ。 隣の焼き肉屋からは、えもいえぬ香ばしい香りが、イジメのように漂ってくる。 「世間では、獲物が取れなかったときは外食で安直に済ますのだろう。 それは、それでいい。人それぞれだ。 だが、俺は、安易に妥協はしない。」 ふと目に入った、深夜営業のスーパーの白い照明が眩しい。 「今夜の俺の狩猟舞台は、ここだ!」 「間違いない、簡単に捕まえられそうなカモが、たくさん居るじゃないか!」 (※カモ肉は使いません。) もやし ー 1パック (もちろん、ミックスモヤシでもOK)…

孤独の自炊 #002:焼かない焼うどん (復刻版)

■ プロローグ 深夜、ホテルのチェックイン前にコンビニに立ち寄った、原之足三郎。 しかし、コンビニの棚からは、焼きそばパンも、カップ焼きうどんも、跡形もなく消えていた。 三郎:「……焼きのつくものが、こうも見事にないとは。胃袋が焼きを求めている日に限って、これだ。」 しかし、三郎は諦めない。 焼けないなら、焼かずに焼きうどんを作ればいい。 この妙な意地が、夜の街を歩かせる。 ふと目に入った深夜営業のスーパーの蛍光灯が、やけに白い。 ゆでうどん (何も調味料がついていない、一番地味で安いヤツです。)…

歴史の断片が落書きされ一人歩きするとき:脱亜論(福沢諭吉)と津田梅子をめぐる誤解

はじめに 最近、国際情勢の変化にともなって、近隣諸国についての強い言葉や刺激的な投稿を目にすることが増えました。 私自身も気になって読んでいたのですが、念のため背景を調べていく中で、いくつか「事実と違うまま広まっているもの」があることに気づきました。 この記事では、その中でも、日本人側の目線での意見で特に目にする機会の多い 脱亜論(福沢諭吉)・津田梅子について、誤解されやすいポイントを静かに整理してみたいと思います。 「脱亜論」は、ネット上でしばしば “福沢諭吉のアジア蔑視の証拠” として引用されます。特に有名なのが、次の一節です。 「惡友を親しむ者は共に惡名を免かる可らず。我れは心に於て亞細亞東方の惡友を謝絶するものなり。」 この部分だけを見ると、…