孤独の自炊 #006:「義理タンポ」鍋

 

この記事は、キリタンポ鍋の話題ではありません。
見出し画像は、AI作成画像です。

1. 郷愁と、現実の棚の前で

吹雪の秋田での仕事を終え、関東に戻る新幹線。昨夜食べた「本場」のキリタンポ鍋は、確かに絶品だった。特に、天然の舞茸は、地元でもなかなか手に入らない、とても貴重なものだったようだ。

だが、お会計の数字もまた、これまた立派なものだった。地元の方はこういう時『ドデした(驚いた)』と言うらしい。あいにく『どうでした?』と感想を聞けるような雰囲気ではない。ただ、ただ、その数字に、俺の財布がドデしていた。

「美味いものには代償が伴う。それは、わかる。……
だが、俺の日常は、もう少し気楽な、別の場所にあるはずだ」

明日の埼玉での仕事に備えて、大宮駅で下車し
予約したビジネスホテルへ向かう途中のスーパー。

秋田ではあんなに探しても見当たらなかった、手ごろな「白き円筒」が、ここでは当たり前のような顔をして、百円程の値を提げて山積みされている。

キリタンポ一袋分で、この円筒が何本買えるだろう。
……そんな無粋な計算は、よそう。
大事なのは価格じゃない。
今、俺の胃袋が何を求めているかだ。
帰ってきたぞ、関東へ。……

カゴに入れたのは、もちろんちくわぶだ。

2. 「義理《ギリ》タンポ」戦隊、集結。

米の価格高騰に伴い、きりたんぽも今や「高嶺の花」。
だが、これまでお世話になったことへの義理を果たすこと忘れたくない。
今、私が作れるのは、義理を果たすための「義理《ギリ》タンポ」だ。

エリート軍団(比内地鶏・天然舞茸・根付きのセリ)の不在を埋めるのは、各地の野武士たちで、ねいがー。

【今回の精鋭たち】

ちくわぶ
今回の主役。出汁を吸うために生まれた「白きスポンジ」。
関東以外では、あまり見ないかもしれませんね。 
切り餅やうどん、里芋、厚揚げ、もし岩手の方なら南部煎餅でも、代用できますよ。

• 鶏肉 
もも肉や、手羽元、手羽先など。鶏団子でも可。
脂のコクと生姜の風味で、比内地鶏に真っ向勝負を挑めます。

• 長ネギ
セリのような華やかさはないが、加熱でとろける「甘みの暴力」
もし関東なら、地元の深谷ネギや下仁田ネギも勿論オススメです。

• ゴボウ
セリの根は、なぜか切り落とされて売られていることが多いですが、セリの根の風味を再現するためには、ぜひゴボウを加えて下さい。スライス済みでパックに入ったササガキゴボウでも、OKですよ。
茨城産の泥付きゴボウは、関東ローム層が育てた、力強い土の香りの主でもあります。

• 舞茸
安定のレギュラー。スープを深い琥珀色に染める名脇役。
椎茸やブナシメジ、ナメコでも代用できますよ。

温度と香りの「偽装工作」

ホテルの一室。まずはゴボウをピーラーでささがきにする。あえて水にはさらさない。この「アク」こそが、スープに深みを与える天然の香料だからだ。
(市販のササガキゴボウなら、酢水を抜くため、軽く水洗いだけでオッケーですよ。)

次に、ちくわぶ。(見栄えを気にしなければ、この後の色づけは省略して大丈夫です。)
斜め切りにした表面に、麺つゆ、または醤油とスティックシュガーを混ぜたタレを薄く塗る。
「物理的な焦げ目はなくてもいい。レンジで1分弱、この『焼けたデンプンの香り』さえ立たせれば、鼻が勝手に、これは焼きたてのきりたんぽだと思い込んでくれる」
一瞬、ターボライターで炙ろうかという衝動に駆られたが、それは孤独のサバイバルが過ぎる。今は、この香ばしさだけで十分だ。(ターボライターはでも試しましたが、力不足な様です。)


オーブントースターで、控えめにやってみました。

旨味の重合、そして自由。

耐熱密封ビニール袋(例:ジップロックやリード冷凍保存バッグなど)という名の小宇宙に、全ての具材を放り込む。

耐熱密封ビニール袋は不適切なことがわかりました。🙇
別記事、孤独の自炊外伝で、対案をご紹介しています。💡

味付けのベースは、麺つゆと粉末鶏ガラスープ。

「きりたんぽの魂は、鶏の出汁にある。鶏ガラスープで動物性のパンチを足し、麺つゆで和の深みを整える。これこそが、あの芳醇なスープを再現する最短距離だ」

(※もし鶏ガラスープがなければ、チキンコンソメでも代用できます。
その場合、香味野菜の甘みが加わり、より重厚な『和洋折衷おでん』のような趣になります。)

耐熱袋は、何度も使いまわしているので、くすんでしまっています。

レンジの「強モード(500〜600W)」で3分、一気に加熱したら、「弱モード」でじっくり5分。(鶏肉にしっかり火が通り、ゴボウも違和感なく食べれるまで加熱できれば、大丈夫です.)

ちくわぶの芯にあるデンプンをじわじわと呼び覚まし、スープの旨味と入れ替えていく。
仕上げにバスタオルで包み込み、シャワーを浴びている間の「余熱浸透」に委ねる。

立ち上がる湯気、孤独の勝ち鬨

シャワー上がり。
バスタオルは使っているので、ハンドタオルで身体を拭く手間など、この香りを前にすれば些細なことだ。

袋の口を開けた瞬間、秋田風を名乗る、フェイク料亭にも負けない、深い土の香りと鶏の脂の匂いが部屋を満たす。

もう少し、小さな器でもよかったですね。 でも、自分用ですから …

一口、頬張る。
「……完璧だ。これだよ、これ」
モチモチとしたちくわぶの弾力。
ネギから溢れ出す濃厚な甘み。
そして、ゴボウが放つ大地の息吹のような

風がささやきかけます。
「うまい…うますぎる!」

セリがなくても、関東の土が育てた食材たちが、その穴を力強く埋めて、義理をはたしてくれているようだ。

物価高という不自由な時代。
だが、私たちの想像力まで、値上げされることはないのだ。
私は熱燗を流し込み、自分だけの「正解」を胃袋に収めた。

(了)


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  • この記事は、以前noteに投稿していた記事の復刻版です。復刻にあたり、note内のリンクは外し、当サイトでの該当記事へのリンクに変更しています。