孤独の自炊 #009:懺悔湯(ザンゲタン)

地方を飛び回る、呑兵衛なフリーの雑貨商、腹之足三郎。 やっと、仕事が終わり、ビジネスホテルのチェックインまえに、途中のスーパーに立ち寄る。 夕方のスーパーの精肉売り場、値下げシールを貼られた鶏肉が、 まるで「助けてくれんね?」とでも言いたげにこちらを見ていた。 ここは福岡。 釜山まで200kmちょっと。 海の向こうの匂いが、冬の風に混じって届くような土地だ。 そんな場所で、値下げシールが張られた鶏肉に呼び止められたら、 そりゃあサンゲタンのことを思い出してしまう。 「よかよか、連れて帰るけん。」…

孤独の自炊 #008:タコ飯の悲鳴ばい

※熊本県人からいただいたイリコ出汁、もとい、駄目出し。 「これはタコの混ぜご飯たい。 本来のタコ飯みたいに一緒に炊き込んどらんけん、ちょっと影のタコ飯やね。」 昨日、スーパーに立ち寄ったとき、悲鳴が聞こえてきた。 「だれか、助けてくれんね~!」 悲鳴のする魚売り場に行ってみると、顔が真っ赤・・・ではなく、赤黒くくすんで、息も絶え絶えなタコがトレーの上で悲鳴をあげていたのだった。 「兄ちゃん、買うてくれー!」 「よし、俺が助けてやる、心配するな。一晩仕事にでかけるが、おとなしく待っているんだぞ。」 と、声をかけ、会計をすませた三郎はビジホへ戻ると、すぐタコのトレーを冷蔵庫にしまいこんだ。(※タコやイカはかなり長く冷凍保存できます。) 翌日の夜。…

孤独の自炊 #007:茄子(ナス)チャンプルー風

※ 本稿は、麻婆の前提とされることが多い「挽肉」を使用しない前提の記事です。麻婆界隈の方々のご迷惑にならないよう、呼び名に「麻婆」は含めておりません。 沖縄での仕事を終え、やっと本州の空港にたどり着いた、地方を飛び回る、呑兵衛なフリーの雑貨商、腹之足三郎。 とりあえず、ビジネスホテルにチェックインするまえに、途中のスーパーに立ち寄る。 ふと、目にとび込んできたのは、季節外れのナス。 沖縄の市場で見たのは、ひょろりとした長ナスだった。 ヤマト(本土)のスーパーに並ぶ小ぶりなナスは、形こそ違えど、味噌と油を欲しがる性質(さが)は同じはずだ。 そして、わざとらしく、茄子の脇におかれていたのは、大手メーカーの「麻婆茄子」用のパック調味料だ。 箱の裏に書かれた「用意するもの:ナス3本」という命令に従うだけの調理。 そこに、もはや自炊の喜びはなく、あるのは、メーカーのシステムの末端に組み込まれた「下請け仕事」ではないか。…

孤独の自炊 #006:「義理タンポ」鍋

吹雪の秋田での仕事を終え、関東に戻る新幹線。昨夜食べた「本場」のキリタンポ鍋は、確かに絶品だった。特に、天然の舞茸は、地元でもなかなか手に入らない、とても貴重なものだったようだ。 だが、お会計の数字もまた、これまた立派なものだった。地元の方はこういう時『ドデした(驚いた)』と言うらしい。あいにく『どうでした?』と感想を聞けるような雰囲気ではない。ただ、ただ、その数字に、俺の財布がドデしていた。 「美味いものには代償が伴う。それは、わかる。…… だが、俺の日常は、もう少し気楽な、別の場所にあるはずだ」 明日の埼玉での仕事に備えて、大宮駅で下車し 予約したビジネスホテルへ向かう途中のスーパー。 秋田ではあんなに探しても見当たらなかった、手ごろな「白き円筒」が、ここでは当たり前のような顔をして、百円程の値を提げて山積みされている。 キリタンポ一袋分で、この円筒が何本買えるだろう。 ……そんな無粋な計算は、よそう。 大事なのは価格じゃない。…

孤独の自炊 #005:悲しいレンコン

※見出し画像のレンコンの断面はAI生成です。 呑兵衛ながら自炊もする、フリーの輸入雑貨商の腹之足三郎は、天草諸島での仕事のあと、帰りの熊本駅の土産物屋で、本物の辛子蓮根を見つけた。 黄金色の衣、ぎっしり詰まった辛子味噌―― 「……これは、職人の仕事だ。」 その完成度に見惚れつつ、三郎は静かに頷く。 「この手間、この歴史。値段にも理由がある。」 ただ、ふと思う。 九州を離れれば、この味にはなかなか出会えない。 それがまた、本物の価値を際立たせていた。 「本物は本物として尊い。…

孤独の自炊 #004:ヤリイカの香草蒸し🦑

今日も、やっと仕事が終わった。 「今日はくたびれた。何か、買って帰ろうか…」 お惣菜屋のメニュー札、「焼きイカ」は裏返しになっている。 「売り切れか。そういえば、最近、スルメイカを見なくなった。 あの、堂々とした胴体、つやつやした皮。」 「あぁ、急にイカが食いたくなった! 腹が減った…」 気がつけばスーパーの魚売り場に。 片隅には、 薄皮がところどころ剥がれかけた、 どこかみすぼらしいヤリイカが並んでいる。…