孤独の自炊外伝 #001: ライフハックの葬列 (復刻版)

1.驕(おご)り、昂(たかぶ)っていた日々
名作、もとい 迷作「孤独の自炊」シリーズで、地方を飛び回る
呑兵衛なフリーの雑貨商、腹之下三郎。
ビジネスホテルの、あの特有の乾いた空気の中で、
奴は何度も「成功」を収めてきた。
備え付けの電子レンジ。
その狭い庫内に、奴は食材を詰めたジップロックのような耐熱密封ビニール袋を放り込む。
加熱ボタンを押せば、数分後には温かい食事が完成する。
しかも、こぼさないよう気をつければ、食器さえ不要になる。
奴はそれを「ライフハック」と呼び、SNSという名の広場で、さも画期的な発見であるかのように振る舞ってきた。
「ふふ、これこそ旅慣れた男の最適解。
誰にも邪魔されない、俺だけのレンジ調理だ」
実際、それは機能していた。何度だって成功した。
だが奴は、心のどこかで気づいていたはずだ。
一度の加熱でクタクタになり、透明感を失い、文字通り「身を削って」食材を温めている彼らの短すぎる寿命に。

2回ほど使用。もう数回使うと、穴が開きだすこともあった…
それはハックという名の、ただの消耗戦だった。
「……なんだか、こいつの顔色(透明度)が悪い。
無理をさせたな。
すまん」
2.新しい出会い
そんなある日、奴は、とある100均のキッチンコーナーで、そいつと目が合った。
「シリコン(シリコーン)保存袋……?」
手に取ると、これまでの袋にはなかった、図太いまでの厚みと重厚感がある。価格は200円、あるいは300円。
いつもの使い捨ての彼らと比べれば、
特に1枚あたりにすれば、はるかに「高貴な」プライスだ。
だが、パッケージに記された耐熱温度を見た瞬間、奴は自分の無知を突きつけられたような気がした。
「230度。ほう……230度ときたか。
ジップロックが必死に耐えていた100度の壁を、
そいつは鼻で笑うかのように軽々と越えていくじゃないか。
いい、凄くいい。」
奴はその場に立ち尽くし、衝撃を受けた。
今まで奴が「便利」だと思い込んで発信してきたものは、なんだったのか。
しかし一度苦渋を舐めたことのある、奴は冷静だった。
「まてよ?… 世の中、そんなに上手い話しがころがってるだろうか?」
奴は、もう一度、パッケージに鋭い視線をあてた。
3.甘い罠への逆襲
3.1 熱い誘惑
「やっぱりな。……本体は230度まで耐える剛の者だが、このバー(棒)は70度で音(ね)を上げるのか。弱点のないヒーローはいないってわけだ。
よし、バーは外して、少しだけ口を開けておけばいいわけだ。
熱い蒸気を逃がすための『遊び』……それが大人の余裕ってやつだ」
3.2 色仕掛けと芳香の洗礼
どこからか、噂話が聞こえてきた。
シリコンは非常に優秀な素材らしいんだけど、
唯一の弱点は「吸着力」なんだってさ~。カレー・キムチ・ケチャップ: これらを加熱すると、一発で袋がオレンジ色に染まっちゃって。洗ってもなかなか落ちないんだって。
匂いの残留: ニンニクの効いた惣菜を温めると、次に白米を温めたときに「ほのかにガーリック風味のライス」が出来上がちゃうんだって。
対策: 「これはカレー・惣菜用」「これは白米・野菜用」と、用途別に袋を分けるといいらしいよ。
「ふん、甘いな。
旅慣れた俺は、こんなことぐらいじゃ値を上げないぜ。
だったら、シリコン袋の内側に『耐熱ポリ袋(アイラップや、100均の湯せん調理袋)』を入れ、2枚重ねにすればいいだけじゃないか。
申し訳ないが、色や匂いに侵された内袋だけには、運命を全うしたと感謝すればいいことだ。」
3.3 軟弱者
また、どこからか、噂話が聞こえてきた。
シリコンは熱を持つと、想像以上に柔らかくなるんだって。
火傷に注意: 冷蔵庫から出した時はカッチリ自立していても、加熱後は腰が砕けたようにフニャフニャになるんだよ。レンジから取り出す際、素手で持つと中の熱水や蒸気が漏れて火傷をする危険があるんだってよ。
対策: 取り出すときは必ず上部の「厚みのあるフチ」を持つか、ホテルの備え付けのタオルを添えて、慎重に救出すればいいんだってさ。
「おっ? 噂話も、だいぶアテになるようになったじゃないか。」
3.4 ジメジメ後を引く気質
シシリコン袋は内側が乾きにくい。これが地味に一番厄介なんだってさ。
生乾きの恐怖: ビジネスホテルの狭いユニットバスで洗った後、中がしっかり乾かないままバーを閉じてしまうと、次に使う時に「古い水」の匂いがすることがあるんだってよ。
対策: コップなどに逆さまに被せて、口を大きく広げて乾燥させる「干し場所を確保」すればいいらしいよ。
「噂話も、俺のクセを少し学習しやがったらしいな。」
3.5 意外と根性無し
シリコン袋に慣れていると、ついパンパンに詰めたくなるけど、シリコン袋は伸縮性がそれほどないらしい。
内圧の反乱: 欲張って詰め込みすぎると、加熱時に中身が溢れ出し、ホテルのレンジ内を大惨事にするリスクがあるらしい。
「そうか … だから、『八分目』が、安全への黄金律なんだ。」
「噂話は、もう、完璧に俺の影響をうけてるんじゃねぇか?」
4.新たな旅立ち
とりあえず、この厚手の、頼りがいのあるシリコンの塊さえあれば、奴はもう、袋の「死」を看取る必要はなさそうだ。
「よし、決めた。今日から俺の相棒は、このシリコンだ。
これからは、もっと自由に、もっと大胆に温めさせてもらおう。
焦るんじゃない、俺は腹が減っているんだ」
奴は、過去の投稿を心の中で弔った。
使い捨ての時代は、奴のなかで静かに幕を閉じた。
「あぁ、早く試したい。
今日は、自炊を休んで、
ホテルの近所のスーパーで、
一番熱を通しにくそうな、
値下げされた、
出来合いの、
分厚い、
惣菜を買って帰るとするか……」
次回の奴の投稿からは、少しだけ「重み」のあるハックを語ることになりそうだ。
以前の「孤独の自炊」で紹介した、ジップロックなどでのレンジ加熱は、残念ながら、マイクロプラスチック溶出防止の面からも推奨されておりません。
自分の経験から、数回程度であれば使用できましたが、あくまで、非常事態の場合に、自己責任での対処方法と、ご理解いただければ幸いです。
なお、シリコン商品の直接のリンクを避けるため、ご参考用の検索リンクを張っておきます。
高価なものもありますが、探せば、安価なものも見つかります。但し、安物はやっぱり安物です。ご自身で納得できるものを探してください。
- 本記事は、以前、noteに投稿していた記事の復刻版です。私はnoteを除名されたため、現在はnoteでこの記事をご覧いただくことはできません。
- 除名に至った経緯は カテゴリー:5243.t(note)について に詳しくまとめてあります。また、関連情報も 5243カテゴリー の記事として随時追加しています。
- この記事は、以前noteに投稿していた記事の復刻版です。復刻にあたり、note内のリンクは外し、当サイトでの該当記事へのリンクに変更しています。
他の、孤独の自炊シリーズは、「暇人之友」カテゴリで投稿しています。こちらもご高覧いただければ幸いです。
