頑固親父の落書きを防ぐためにできること(復刻版)

はじめに

「頑固親父」という言葉を聞いて、あなたはどんなイメージを持つでしょうか。
  年を取ると頑固になる、怒りっぽくなる…
そんな「よくある話」として、私も軽く受け流していました。

まさか、自分の身近な人が、ストレス発散のために、ご近所に落書きを始めそうになるとは思わずに。

この記事は、ある一つの家族の経験を記したものです。
医学的なアドバイスではありませんし、すべての人に当てはまる話でもありません。

ただ、同じような状況に直面している方、あるいはこれから直面するかもしれない方にとって、何かの参考になればと思い、書き残すことにしました。

「性格が変わった」で片付けていた日々

最初は些細なことでした。
以前はそれほど気にしていなかったようなことに、やけに固執するようになった。
ちょっとした意見の違いで、妙に怒りっぽくなった。
「昔は良かった」という言葉が増えた。
「年を取ったから、頑固になってきたんだな」
そう思っていました。周りの人も、同じように言っていました。
よくある「加齢による性格変化」として、それを受け入れようとしていたのです。

「頑固親父」という言葉の背景

そもそも「頑固親父」という現象は、どこから来たのでしょうか。
日本の場合、戦前の家長制度が関係していると言われています。
家長が家族に対して強い権限と責任を持ち、それが威厳的で融通の利かない態度として表れた。儒教的な価値観が残る社会では、父親の権威がより制度的に支えられているため、こうした現象が顕著かもしれません。

ですが、調べたところ英語圏にも「stubborn old man」「grumpy old man」という表現があるのだそうで、これは日本だけの現象ではないようです。

要は、年齢を重ねると誰しも多かれ少なかれ:
∙ 柔軟性が低下する
∙ 世代間の価値観の違いに戸惑う
∙ 身体機能の低下や社会的役割の変化にストレスを感じる
∙ 伝統的な性別役割の中で、弱さを見せられず怒りで表現する
こうした要因が重なり合って、「頑固」や「怒りっぽさ」として現れることがあります。

女性の場合も同様です。更年期のホルモン変化という要因もありますが、長年の抑圧からの解放や、正当な怒りの表明という側面と、認知機能の変化が混在していることもあります。

もう一つの可能性 - MCI(軽度認知障害)

しかし、もう一つ、見過ごされがちな要因があります。
それが、認知機能の低下です。

MCI (Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)やその前段階では、以下のような変化が起こることがあります:
∙ 前頭葉機能の低下による感情制御や衝動抑制の困難
∙ 状況理解の低下による不安や混乱、それに伴う苛立ち
∙ 問題解決能力の低下による欲求不満への耐性低下
∙ 聴力低下などとの複合的な影響

これらは、世界的に観察される神経生物学的な現象です。
そして厄介なことに、これらの変化は「性格が変わった」「頑固になった」「怒りっぽくなった」という形で表れるため、周囲も本人も、認知機能の変化とは気づきにくいのです。

最も難しいこと - 「検査を受けてもらう」まで

気づいたとしても、次の壁が立ちはだかります。
本人に検査を受けてもらうことです。
 「あなた、最近怒りっぽいから、認知症の検査を受けてみたら?」
こんな言い方ができる家族が、どれだけいるでしょうか。

本人にとっては:

∙ 「ボケ扱いされた」と感じる
∙ プライドが傷つけられる
∙ 認知症=終わり、というイメージへの恐怖

周囲にとっては:

∙ 指摘することで関係が悪化するリスク
∙ 本当に認知機能の問題なのか、単なる性格変化なのか判断が難しい
∙ 「気のせいかもしれない」という迷い

検査を受けてもらうための工夫

具体的にどうしたかは、各家庭の状況によって異なると思いますが、一般的に効果的だと言われているアプローチをいくつか挙げます:

1. 健康診断の延長として提案する
 「認知症検査」ではなく「脳の健康チェック」「脳ドック」として。
 血圧測定や血液検査と同じように、ルーチンの一部として提案する。

2. 一緒に受ける
 「心配だから受けて」ではなく「一緒に受けてみない?」
 自分も受けることで、特別扱い感を減らす。

3. 前向きな動機づけ
 「問題発見」ではなく「健康維持」「予防」という枠組み。
 早期発見で進行を遅らせられる、というポジティブなメッセージ。

4. 第三者の力を借りる込まれている形で。

身近なケースでの対応事例

自分の身近で起きたケースを、プライバシーに配慮しつつ紹介します

以前、軽度の脳梗塞を患ったことがある方です。後遺症はありません。

最近、白内障の手術を受け、物が見えるようになったことはとても喜んでいましたが、同時に、家の中が汚れていることにも気づいてから、同居の家族に、汚れを放置していたことや、掃除に協力的でないことを怒りだすように。

脳梗塞の再発防止のため、血を固まりにくくする薬を定期的に処方してくれている近所の掛かり付け医にかかったとき、家族がこっそりとメモを渡されたそうです。

「かつての脳梗塞の影響があるのかは不明ですが、最近怒りっぽくなっています。脳梗塞の件にからめて、MCI簡易検査、もしくは、どこかへのご紹介をお願いします。」

その後、以前脳梗塞の跡を見つけてくれた別の病院を紹介され、おそらくMMSEなどの認知機能検査のことのようですが、27/30という検査結果に。

この数字が何を意味するのか、専門医の詳細な評価が必要だそうですが、少なくとも「気のせい」ではなかったということが分かり、次のステップに進むことができたそうです。

「他人事」ではないかもしれない

この文章を読んでいるあなたは、もしかしたら:
∙ 親や配偶者の変化が気になっている
∙ 「年のせい」で済ませていいのか迷っている
∙ どう切り出せばいいか分からない
そんな状況かもしれません。
あるいは、まだ「自分には関係ない」と思っているかもしれません。
でも、誰もが年を取ります。
誰もが、いつか当事者になるかもしれません。

高齢化社会となる中、いずれは認知機能のチェックが、血圧測定や健康診断と同じくらい当たり前になる社会が来るかもしれません。

それまでは、自分たちで注意深く周りに目を配り続けるしかなさそうです。

おわりに

この記事は、医学的なアドバイスではありません。
一つの家族の経験に過ぎません。

ただ、もし同じような状況にある方がいたら、何かのヒントになれば、と思いました。

まだ「他人事」だと思っている方にも、いつか「自分事」になるかもしれない、という視点を持っていただけたらと思います。

この稚拙な文が誰かの役に立ち、近所の落書き防止になるのなら、それで満足です。